6
絶望と脱力の中で烏吠の背を見つめて、蒼は自分がいつから気付いていたのかを思い出そうとした。
おそらく、赫に出会った晩だろう。あの時既に自分がこの人から狙われているのではないのだと気付いていた。
きっと命を狙っているのは他の何かで、それを烏吠は知っている。だからこそ一人で行かせたのだろうと。
赫に会うことは必要だった。だから一人で行かせたし、私もそれが必要だと分かっていた。
景の仕草に怪しげなものは何もなかった。しかし、烏吠を恋しがったあの夜に、抱きしめられた時既に蒼は感じるものがあった。
抱きしめて、慰めているのは、烏吠と離れ離れになっているからではない。他の、もっと、どうにもならないことの方を憐れむような、
そんな抱擁だったのだ。だいじょうぶ、だいじょうぶ、と繰り返していた声を思い出す。
蒼を殺すことを、苦しんでいたのかもしれない、と思いたかった。しかし何を思っても、全てがもう遅い。
景は、いないのだ。
「蒼」
死体を布で包んで、あちこちに飛んだ血を荒く拭き取っていた喬珂に背を向けて、烏吠はこちらに向き直った。
もう、終わった、と。
「景・・・・」
分かりきったことを口にする自分に辟易したが、それでも尋ねずにはいられなかった。
「なぜ?」
「まだわからん。術を掛けたのは赫だ。しかし敵ではない。お前に刺客を差し向けていたのは景だ。」
おそらく冗荏に来ることが刺客を殲滅する最善の策だったのだ。赫にとっても、蒼たちにとっても。赫の呪術はそれを導いた形になる。
初め、森で襲ってきた刺客も、おそらくは景の手によるものだろう。では川嘩が敵なのか。
うすうす気づいてはいた恐怖が、景の隠しきれない殺気からだったのかと思うと、憎まれていたことが悲しかった。
「川嘩が敵なのか、と問われればそうだ」
口に出していないのに、羽陽が落ち着いた声で答えた。
「景が今の川嘩の代表なんでな。歳若く女の身だが、川嘩も緑卯も長になるのにそれは関係がないからな」
川嘩が敵になったことの意味は、まるで分らなかったが、冗荏が危険ではないことは納得するしかなかった。
「しかし」
喬珂は手についた血を拭って、顔をしかめた。
「少々強引な手だ。おそらく景の刺客の中に自分の存在を匂わせるような者を紛れ込ませたのだろうが・・・・不気味なやりくちだ。」
「それだけ、赫も今回のことに賭けていたんだろう。緑卯から蒼を奪うつもりなのは変わらない。
敵ではないという意思表示をすることも目的だったのだろうが…どこまで信用したものか」
烏吠は重く息を吐くと、喬珂と羽陽に指示を出した。
「とにかく、卦兎を連れてこい。あれに景の役をさせる。冗荏を出れば警護に戻すが、な。景は…そうだな、卦兎に任せよう。
手厚く弔いをせねばならんところだが、生憎今はそんな時間はない。それに…今となっては刺客の頭目だ…」
なにもかもが蒼を混乱させたが、ここで取り乱しても邪魔なだけだ。ただでさえホノメが完全には抜け切れていない自分は足手まといなのだ。
騒ぐ頭と心を抑えつけて、蒼は身支度をし、自ら武器の確認をした。
落ち着いて烏吠の顔を正面から見ることができなかった。手元が震えるのが分かった。
烏吠に、人を殺させてしまった。
それが自分の存在のせいなのだと、暗く沈む意識が訴えていた。
景が死んだのも、今ははっきりとした理由が分からないとはいえ、自分の血のせいなのだろう。
死をあんなに近くに見たというのに、今はもう、何も考えられなかった。自分の存在が引き起こしたことが、多すぎた。
やがて、阿木と迩莉が再び部屋に訪れた。血の匂いは香でごまかした。出立前の身支度ならば香を焚くのも不自然ではない。
窓辺に立って、景に化けた卦兎はずっと下を向いたまま、突然の出立を残念そうにして見せた。
申し訳ありません、と烏吠がまず口火を切った。
「今回、このようなことでご迷惑を…我ら臣下としてもなんとも情けなく…」
「そのような、おやめ下さい、まだ日にちはあるのです。また代理の方にお頼みするもよし、倶璃姫がお元気になられてからでもよし、
同盟はいつになってもよいのです。むしろ、今回の滞在でより冗荏を知っていただけたのではないかと。同盟国のことは知っておきたいと
思われていたでしょうから。こちらとしては、元々、そうした機会を設けることもやぶさかではありませんでしたから」
「そう仰って頂ければ幸いです。次の訪問では必ずや堅固な絆を築き上げたいものです」
喬珂がそう答えると、烏吠も頷いた。羽陽は寝台の横で、眠りこんだ風を装った蒼につき従ったまま頭を深く下げた。
不自然な点は多い。この出立のほころびがいつ見つかるかと烏吠も気が気ではない。冗荏、いや、赫が敵であるとは言えないと
分かってからも、警戒せずにはいられない。しかし今のところ川嘩として潜り込んだことは赫以外には知られていない。
迩莉は恐らく、急な出立に思うところはあるだろうが、これ以上追及しない、といったところなのだろう。顔は穏やかなままだった。
本気で川嘩との盟約を望んでいるのだ。
烏吠はその顔を見てますます焦った。こうなれば、冗荏を出てもすることがたくさんある。冗荏との盟約は近いうちに果たさなければならないのだ。
緑卯が、その川嘩として、である。しかしそれは無理な話だった。赫の出方を待たずにそれはできない。
赫ともっと話さなくてはならない、しかし今はそんな時間もない。川嘩が景が死んだことを知れば、何が起こるかは想像がつく。
まともな策は緑卯にはなかった。
そう、戦以外には。しかし烏吠は戦を第一手段として考えるのだけは避けたかった。敵が膨れ上がったら、勝ち目があるかどうかなど
考えたくもない。川嘩を敵として考えるなど、ありえない話だったのだから。
冗荏と緑卯が直接同盟を結ばない限りは森を捨てて逃れるしかない。その準備は早くて2日かかる。冗荏の存在が脅威となってから、
常に森を捨てる覚悟と、その日が来たらどう動くかを氏族の代表者たちの間で定めてあった。
しかし2日では川嘩の兵が届くには充分すぎる時間なのだった。増してこれに当初敵であると疑わなかった冗荏が川嘩に加担して実際に兵を動かせば、
前面衝突は避けられない。戦になれば、冗荏も川嘩も、目的であるはずの森のことなど忘れて血に狂う。人間など簡単に死の空気に酔うのだ。
戦をすれば森も荒れるだろう。森を守る使命が緑卯にはある。それに、子供や老人は、怪我人や病人は…。
森から抜けて、岩と林の景色が広がる道へ出て、川へ出て、それから…それから。
時間が足りない。
「では、必ず」
喬珂が阿木に向かって言うと、部屋の外に烏吠と共に出た。羽陽は四津樹姫である景に変装した卦兎を傍らに、蒼を抱き上げてその後に続いた。
部屋の外に待機させておいた輿に羽陽が蒼をゆっくりと横たえると、阿木は苦しげに声を上げた。
「倶璃姫」
迩莉が、小さく阿木、と嗜めたが、阿木は声を掛けるのをやめなかった。
「倶璃姫。阿木はあなたを待っておりますよ、必ず、また会いましょう、約束してください」
蒼は弱々しく頷くと、ただ阿木の瞳を見つめ返し、何も言わなかった。言えるはずもない。この阿木に、蒼が言うべきことはなにもなかった。
だが、あまりにも阿木の瞳はまっすぐにこちらを見ていた。赫とはこんなにも違うのに、自分は見抜けなかったのだ。今更ながら阿木という男に
きちんと向き合った瞬間が初めて言葉を交わした時以降、一度もなかったように思えて、蒼はどこか後ろ暗いような気持ちで阿木を見た。
城の外へ出、長、阿木と迩莉、そして彼らの側近たちと複数の官吏に見送られながら城門の傍に至った。
城門ではすでに円蒔の隊からの迎えが着いていた。警戒されないよう、人数は最小限に抑えている。
「後で使者を向かわせます。どうぞ同盟の事、ゆめゆめお忘れなきよう」
長が微笑んで烏吠に声を掛けると、烏吠は膝を付いて深く頭を下げた。
そして、一通りの挨拶を終えると、一行は無事城門を突破した。
友好国という姿勢で接してはいるが、同盟には至っていない。冗荏の見張りが付くのは当たり前だ。気配がする。
やはりな、と烏吠は苦い顔をした。しかしそれも一刻ほどだ。その後が肝心なのだった。
二刻ほど経ったか、という時、烏吠は蒼を城門で与えられた輿から出して背に担ぐと、足を早めた。
「烏吠、輿はまだ捨てぬ方がよくないか」
喬珂が押し殺した声で言ったが、仕方なかった。少しでも早く緑卯に帰らねばならない。
「伝令は戻ったか」
明け方に飛ばした伝令だった。それが今は命綱だった。迎えが来ればそれだけ早く帰れる。そうすれば、対策もたてられる。
「少し先に待っている、みな無事だ。国のみんなもだ。だが馬は無理だぞ。わかっているだろう」
羽陽がくぐもった声で言った。
「くそ…」
不機嫌に言い放つ。その時、遠く前方を微かに走る影が見えた。卦兎が呼んだ円蒔の残りの隊。迎えだ。
喬珂はほっとしたように大きく手を振って合図をしながら烏吠に言った。
「あの馬は緊急時にしか出さない足だからな。色も速さも目立ちすぎる。
実際、今は緊急時だが、冗荏にも川嘩にもそれを悟られるわけにはいかん。だが、円蒔の隊が居ればなんとかなる。
何か連れてるだろうよ。まあ馬には劣るだろうが仕方ない」
「そうだな」
羽陽が烏吠の代わりに悔しそうに言った。
緑卯の馬は目立ちすぎる。発光する毛並みは昼は緑色に光り、夜は青く重く光る。あれが出れば他国に感付かれてしまう、戦が始まるのだと。
本格的な戦闘時に駆り出される緑卯の馬は、その足は陸では一番早いと言われる。しかし同時に、隠れて移動するには適さないのだった。
火のようにその光は遠くまで届く。戦闘以外の時は祭事に使われるが、それも稀なことだった。この馬も、昔から他国を魅力してきた国力のひとつだった。
やがて円蒔たちのいるところまでたどり着くと、烏吠は息急き切って言った。
「間に合わん。できるだけ早く国に帰らねば。何を連れてる」
とっくに変装をといた卦兎が円蒔から説明を受けた。卦兎はいつもより鋭い表情で烏吠に告げた。
「人数分の弧狼(ころう)と、それから伝令の為に、砂猫(さびょう)をいくらか」
「分かった。卦兎は一番後からついてこい。私と蒼、羽陽は弧狼で、喬珂が砂猫を使え。残りの者は半数に別れてそれぞれ私と喬珂に付け」
喬珂が砂猫を使うということは一番先に緑卯に到着するということだ。喬珂は素早く準備をすると砂猫の背に結えられていた水の入った革袋
で喉を潤した。次に別の袋に入っていた小さく砕いた岩塩を口にいくつか放り込んだ。
走り出せば水など飲んでいられない。塩の補給などもっての外である。下手に動くと舌を噛む危険性があるからだ。
喬珂の行動は砂猫の速度を理解している者ならば当然のものであった。
円蒔は卦兎と何事か相談した後、烏吠に言った。
「烏吠どの、私は後方から卦兎どのと共に警護致します。他の将もあなたの采配で配置をお願いいたします」
わかった、助かる、と烏吠が短く返事をすると、では、と二人と数人の兵は今烏吠たちが来た道を戻り始めた。
円蒔の部下を前方、左右に付けると、烏吠は手綱を握り喬珂の方へ向き直った。行け、と言おうとしたその瞬間、
それまでずっと黙っていた蒼が、遠慮がちに口を開いた。
「喬珂!」
喬珂は、烏吠に支えられて早くも弧狼の背に引き上げられている蒼を見た。その眼は見開かれ、有無を言わさぬ威厳があった。
内心苦笑いしながらも、従った自分の足と手に違和感など感じなかった。
近づいて跪き、その手を取るとその甲を額に押し付け、最後に素早く指先に口付けた。
「心得た」
砂猫に跨がり、あとはもう振り返らずに進むだけだった。彼女の眼が、死ぬことは許さない、と言っていた。
今はそれだけが胸に強く響いて暖かく、自分を鼓舞してくれていた。確かに、あの娘は緑卯の森の主なのだった。
喬珂たちが遠ざかり、砂猫の足音が聞こえなくなると、烏吠は指示を出した。
「何があっても辿りつけ。離れることは許さん。見える範囲、聞こえる範囲の距離で移動しろ。見張りは気にするな。まっすぐに国をめざせ。
追手はおそらく追いつけないはずだ。弧狼の足も、砂猫の足も、森馬にさほど劣らないからな。だが油断はするな。それから」
誰も乗っていない砂猫がまだ2頭、残っていた。そちらを向いて烏吠は言葉をつづけた。
「お前たち、話は聞いていたな。足跡を適当に他国の国境の手前まで付けて戻れ。そうだな、川嘩を含め三国ほどでいい。
絶対に気取られるな。川嘩にお前たちほど俊足の者はいない、だから無用な心配だろうが…用心して行け」
烏吠の指示を聞いて、2頭は頷くと、心配そうに見ていた蒼の方を向いて口を開いた。
「我らの足ならば、半刻とかからずに仕事を追えます。すぐに追いつけるでしょう。お気を付けて、蒼様」
「どうぞご無事で、姫様」
それだけ言うと大きな乳色をした足の長い猫は、目にも止まらぬ速さで消えていった。
烏吠が少しだけ驚いたように笑って言った。
「やつらが話したのを見たのは初めてだ」
蒼はほとんど会えば彼らの声を耳にしていたが、彼らが自分以外の者の前で話すのを見たのは蒼も初めてだった。
彼らは滅多に話さない。大事な時に、必要なことだけ話す。弧狼はもっと話が好きな獣だが、砂猫は極端に声を晒すのを嫌うのだ。
話す言葉は短く、なるべくなら身振りで済ます。よほど今は蒼を案じていたのだろう。
「では、行くぞ。みな、私に続け」
烏吠の短い号令の後に、弧狼の足音が土を踏んで静かに、風のように動き出した。
蒼の頬を風が撫でていく。烏吠の胸を背にしていても、首が後ろへ引っ張られるようだった。これが砂猫ならばどうなっているのか。
改めて喬珂や他の者たちの騎乗技術に感心しながら、烏吠の腕にしがみついた。
しっかりと抱えられていたが、それでもその速さは尋常ではなかった。
「姫、大丈夫ですか」
遠慮がちに蒼と烏吠が乗った弧狼が語りかけた。
「だい、じょうぶよ」
蒼は風で口を開くのにも苦労しながら返事をした。
「おい、話しかけるなよ、口を開かせるな。蒼、黙っていろ、舌を噛むぞ」
烏吠が怒って言うと、すまなそうに言った。
「申し訳ありません。しかしお辛そうな様子でしたので。足をゆるめますか」
首を振って蒼が先を促すと、変わりに烏吠が返事した。
「よい、駆けろ」
その一言の後、蒼はもう目を開けてもいられなくなった。一段と速さを増した彼らの足は、景色の色を混ぜ、何も見せてはくれなくなった。
びゅうびゅうと耳はそれだけを捉えて、他になんの音も聞こえない。緑卯まで、きっとすぐだろう。蒼は思った。
きっと、大丈夫。なんとかなる。川嘩が敵になった今でも、まだ解決する方法はある。そう言い聞かせた。
やがて烏吠の懐に布を被ってもぐりこむと、赤子のように丸まって感じるのは揺れだけになった。
揺れに体が慣れたころ、半月で行く距離の半分まで進んでいた。
もう半刻ほど飛ばせば、緑卯に着く。見なれた景色に蒼は少し緊張を解いた。
弧狼は相変わらず凄まじい速さで駆っていたが、ふいに口を開いた。
「なにか来ます。振り切りますか。烏吠殿。様子を窺うならば身を潜ませなくては」
「何者か分かるか。問題なければ振り切れ。時間が惜しい」
「獣のようですが・・・・我らにも分かりかねます。しかし我らを認識した上で接近してくるようです。敵意はないようですが」
「なぜ分かる。川嘩の物見かもしれん」
「いいえ、笛を鳴らしています。話し合いを求める時の笛です。彼らは国には属さない、氏族だけの集団でしょう。ああいった行動は
獣だけで生活するものの知恵です。笛を合図にするのは古い手段ですが、それだけ正当な方法なのです」
弧狼にしか聞こえないのだろう。烏吠の耳に笛の音はしなかったが、恐らく近くまで迫っているはずだ。
「他になんと言っている」
「敵意はない、ということの他には、手を貸す、と。借りがあるとも。おそらく何年か前に長が冬に食料を供給した一族かも知れません。
確か白狼であったかと思いますが」
「お前たちとは違うのか」
烏吠は、警戒を緩めて言った。白狼ならば足を止める必要がある。長の貸しがあるとなれば、長の使いの可能性もあるのだ。
白狼と聞いて蒼もため息をついた。安堵のため息だった。
「白狼なら大丈夫、誠実な方々だし、助けてくれる、きっと」
とまれ、と烏吠がそれを聞いて弧狼にゆっくりと減速させ、足を止めると、周りを固めるように他の弧狼が集合して白狼の到着を待った。
やがて、一頭、また一頭、と白い毛並みの狼が集まってきた。弧狼とよく似た顔をした狼だが、その毛並みは強烈な白をしている。
30頭ほど集まったときだろうか。内の一頭が進み出た。首から勾玉型の笛を下げている。
革ひもに結ばれたそれは美しく藤の花弁の色に輝いていた。その白狼は、他の一族の者と違って頭は狼でも、体は人と変わりなかった。
一人、人型獣頭の白狼は目を伏せて、しかし低い声で強く言った。
「力をお貸ししたい。状況は後で詳しく伺おう。しかし恐らく我らの推測通りならば緑卯は危ない、のだろう」
「そうだ」
短く呟いた烏吠の腕を抜け、蒼は白狼に駆け寄った。烏吠が止める暇もなかった。
「佐塗!」
「蒼!何を、」
烏吠が弧狼を降りて止める前に、蒼は佐塗と呼んだその白狼の胸に飛び込んでいた。
「佐塗!」
ああ、と声を上げて涙を流し、蒼は佐塗の胸に顔を押し付けて叫んだ。
「あおの、ひめ」
そう親しげに呼ぶと、佐塗は軽々とその腕に抱きあげて、顔に手を伸ばした。
「無事でなにより。私がついている、安心されよ。さずはひめの味方だ」
獣の首に縋りついて、蒼は小さく頷いた。とにかく、心強かった。佐塗の助けが、今は蒼の不安を取り除いてくれるのだった。
next